3Dプリンティングを用いたマイクロフルイディクス用デバイスのReview論文

マイクロフルイディクスは研究や開発が盛んな分野であり、特に医療分野では顕著です。例えば癌スクリーニング、微小生理学的システム工学、ハイスループット薬物検査、ポイントオブケア診断などの幅広い生化学および臨床応用を可能にします。
しかし、マイクロ流体デバイスの製造はしばしば複雑で、時間がかかり、高価な機器とクリーンルーム設備が必要です。

Figure 1. 3Dプリンティングを用いたマイクロフルイディクス用デバイスの金型図
(文献[1]のFigure 3より引用)

本記事で紹介するReview論文は、3Dプリンティングを用いたマイクロフルイディクスのデバイスに関するものです。
3D印刷は、開発段階での迅速な設計の反復を可能にするだけでなく、組織のインフラストラクチャ、機器の設置に関連するコストを削減することにより、リソグラフィやPDMSガラスボンディングなどの従来の技術に代わる有望な代替手段となります。
3Dプリンティング技術の進歩により、非常に複雑なマイクロ流体デバイスを、シングルステップ、迅速、および費用対効果の高いプロトコルを介して製造できるようになり、ユーザーがマイクロ流体工学にアクセスしやすくなった、と論文には記載しています。

本Review論文では、多くの3Dプリンティング技術を用いた様々なマイクロ流体デバイスの紹介があるため、概要を理解するには適した論文になっています。

[1] : Amin, R., Knowlton, S., Hart, A., Yenilmez, B., Ghaderinezhad, F., Katebifar, S., … & Tasoglu, S. (2016). 3D-printed microfluidic devices. Biofabrication8(2), 022001.

URL : https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1758-5090/8/2/022001/meta

形状記憶ポリマーを用いた大規模なアクチュエータアレイ構造

active skin with 768 independent elements, using shape memory polymer actuators

本論文では、形状記憶ポリマー(SMP)アクチュエータに基づいて、4mmピッチで、配列数が32×24の個別にアドレス指定可能な触覚ピクセルのマトリックスを備えた、高解像度の柔軟なアクティブスキンを報告しています。

形状記憶ポリマーの本質的な安定性と、狭い温度範囲での剛性の100倍を超える変動により、大きなストロークと高い保持力を同時に示すアクチュエータの高密度アレイが可能になるとのことです。非常に多くのソフトアクチュエータに対処するという制御における課題は、薄いSMP膜上にミニチュアの伸縮可能なヒーターの配列をパターンアレイ化することで解決できると主張しています。

デバイスは、厚さ40µmのSMP層で構成され、その上に32×24の伸縮可能なヒーターを統合、フレキシブルプリント基板で相互接続し、伸縮可能な3Dプリント空気圧チャンバーに接着します。各セルは、行/列のアドレス指定によって個別に制御でき、異なる状態するには2.5秒かかります。アクティブスキンの重量はわずか55 gで、厚さは2 mmだそうです。 全セルの99%以上が完全に機能しており、寿命は2万サイクルを超えているとのことで、実用性に富んでいることを示唆しています。

本論文中で実装したアーキテクチャにより、ハプティックディスプレイ、アクティブカモフラージュ、バイオミメティックロボット、マイクロフルイディクス、および新しいヒューマンマシンインターフェースでのアプリケーションが可能になる、と著者らは主張しています。

[1] Besse, N., Rosset, S., Zarate, J. J., & Shea, H. (2017). Flexible active skin: large reconfigurable arrays of individually addressed shape memory polymer actuators. Advanced Materials Technologies2(10), 1700102.

URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/admt.201700102

ソフトエレクトロニクスの設計製造を迅速に行える新しいプラットフォームの提案

Hybrid 3D Printing of Soft Electronics [1]

ソフトエレクトロニクスは、柔軟で伸縮性があり、身体とともに動くように設計された新しい種類の電子デバイスです。 現在ソフトエレクトロニクスを利用した新しい種類のデバイスを服につけ、新しいインタラクションを生み出したり、実際に製品になっている事例もあります。

Harvard’s Wyss InstituteとHarvard John A.Paulson School of Engineering and Applied Sciences(通称SEAS)のチームは、ハードおよびソフト電子要素を耐久性のある伸縮可能なセンサーに統合し、ソフトエレクトロニクスの迅速な設計と製造を可能にする新しい3D印刷プラットフォームを開発し、その論文がAdvances Materialsに掲載されました。

今回研究チームが提案しているデバイスは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー上に、伸縮性のある導電性インクを最初に印刷することで実現します。 印刷されたインクが引き伸ばされると、その電気抵抗が増加します。 次に、表面実装された電気部品は、正確な場所にデジタルでマウントされます。

ソフトマトリックスと導電性電極は3Dプリントされているため、研究者は電子部品の配置場所を完全に制御できます。 印刷されたウェアラブルセンサーと統合された電子デバイスは、伸縮性のあるテキスタイルに取り付けられています。論文中には指輪のようなウェアラブルデバイスや、靴底、肘に当てるテキスタイルの例も示されています。

研究チームは、今回開発したプラットフォームが、カスタマイズされたウェアラブル電子デバイスの設計と積層製造を迅速に加速する、と主張しています。

[1] : Valentine, A. D., Busbee, T. A., Boley, J. W., Raney, J. R., Chortos, A., Kotikian, A., … & Lewis, J. A. (2017). Hybrid 3D printing of soft electronics. advanced Materials29(40), 1703817.

URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/adma.201703817

pHに反応するマテリアルが見せる新しいエクスペリエンス

Organic Primitives: Synthesis and Design of pH-Reactive Materials

本論文は、MIT media Labで開発され、2017年度のCHI conferenceで発表されたものです。

この論文では、HCIの入出力デバイスのライブラリを拡張し、有機流体ベースシステムとの相互作用の設計を容易にするOrganic Primitivesというものを紹介しています。
pH信号を人間が読み取れる出力に変換するトランスデューサーとして、色、匂い、および形状を変える材料プリミティブを作成しました。食品の有機分子であるアントシアニン、バニリン、およびキトサンに関して、色のスペクトル、形状変形の程度を出力し、臭気状態と非臭気状態を切り替える材料を合成するためのドーパントとして使用したそうです。センサーアクチュエータの個々の出力特性を評価し、pH 2-10の変化の速度、範囲、および可逆性を評価した、と論文の序章に記載があります。

日常で遭遇するpH、つまり酸・塩基に関するものといえば、雨が挙げられます。論文中のアプリケーションでも紹介されていますが、傘が雨に濡れると色が変わる、といったエクスペリエンスも紹介されており、pHに反応するマテリアルが日常生活を明るくしてくれる可能性を示唆してくれています。

[1] : Kan, V., Vargo, E., Machover, N., Ishii, H., Pan, S., Chen, W., & Kakehi, Y. (2017, May). Organic primitives: Synthesis and design of pH-reactive materials using molecular I/O for sensing, actuation, and interaction. In Proceedings of the 2017 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (pp. 989-1000). ACM.

URL : https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3025952

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