生体系からのアプローチをした人工肌を模擬したユーザーインターフェース

Skin-On Interfaces: A Bio-Driven Approach for Artificial Skin Design to Cover Interactive Devices

本論文は2019年度のヒューマンコンピュータインターフェースに関する国際会議であるACM Symposium on User Interface Software and Technology(通称UIST)で報告された内容です。

本論文では、Skin-Onインターフェイスと呼ばれるシステムを提案しています。このシステムでは、インタラクティブなデバイスである人工スキンが、消費者向けに今まで実現してこなかった新しい形式の入力ジェスチャーを可能にする、と主張しています。
この論文の研究では、バイオ駆動型のアプローチに従って、Skin-Onインターフェースの設計空間を調査しており、感覚的な観点から、3つのユーザー調査を通じて人間の肌の外観を再現する方法を研究していたり、ジェスチャの観点から、皮膚で自然に実行されるジェスチャをスキンオンインターフェイスにトランスポーズする方法を検討しています。
また、技術的な観点から、人間の皮膚の感度を真似ることで、ジェスチャーを認識できるインターフェイスを作成するさまざまな方法を調査しています。
これらの調査を集めることで、インターフェイスを実装するために、簡単に複製と製作を可能にするツールキットを提供することでも貢献している、と著者は主張しています。

また、論文内に出てくるユースケースとして、スマートフォンのカバーや、PCのトラックパッド、リストバンドを提唱していたりしており、主にエンドユーザー向けを想定していることがわかります。
それに付随しているのかもしれませんが、この論文で非常に興味深いことの1つとして、Future work部分の考察が多面的であることが挙げられます。生体系からのアプローチ、人間の感情が引き起こす行動面からのアプローチなどから着眼している部分は、自分たちの研究の参考にしてもよいかもしれません。

[1] : Teyssier, M., Bailly, G., Pelachaud, C., Lecolinet, E., Conn, A., & Roudaut, A. (2019, October). Skin-On Interfaces: A Bio-Driven Approach for Artificial Skin Design to Cover Interactive Devices. In Proceedings of the 32nd Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (pp. 307-322). ACM.

URL : https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3347943

多孔質ポリマーを急速に重合反応させて作成する新しい積層造形法とは

Architected Polymer Foams via Direct Bubble Writing (Supporting Informationより引用[1])

Harvard大学のWyss InstituteとJohn A.Paulson School of Engineering and Applied Science(通称SEAS)およびSouthern Mississippi大学のSchool of Polymer Science and Engineeringの研究者チームが、高分子の多孔質体の作成方法に関する研究を発表し、2019年9月にその研究成果がAdvanced Materialに寄稿されました。

高分子における多孔質体には、発泡によってサイズを複数作ることによって、機械的、熱的性質が変化し、相の組成、体積分率、および接続性によってその物性が決まることが古くから知られています。

本研究は、微細構造と機能特性を持つポリマー発泡体を作成するための新しいプログラマブルな高スループットの積層造形法を報告しています。この論文で提唱している直接バブルライティングは、コアシェルノズルを使用して生成された液体シェルおよびガスコア液滴の混合に依存しており、バブルサイズを調整できます。
また、これらの気泡滴の殻は、UV照射を行うプロセス中に急速に重合する低粘度のモノマーで構成されているため、印刷されたポリマー発泡体は全体の形状を保持できます。気泡の液滴を生成するために使用するガス圧力を調整することにより、フォームを調整できるそうです。

また、銀ナノ粒子を組み込むことで、柔らかい圧力センサーとして使用するための、剛性を制御した導電性複合バブルフォームを製造できる、と論文中でも報告しており、論文中で紹介している導電性ポリマーだけでなく他の用途に適用できるポリマーを、オンデマンドで迅速に設計および製造するといった可能性も期待されます。

[1] : Visser, C. W., Amato, D. N., Mueller, J., & Lewis, J. A. (2019). Architected Polymer Foams via Direct Bubble Writing. Advanced materials.

URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/adma.201904668

擬似タンパク質ポリマーを使用したクモの糸のような繊維

本記事は、2019年9月にAdvanced Materialsに寄稿された香港理工大学のInstitute Clothing & Textilesに所属する研究チームが発表した、擬似タンパク質ポリマーを使用した蜘蛛の糸を模倣した繊維に関する論文です。

スパイダーシルクは、世界の他のほとんどすべての材料よりも丈夫であるため、科学者や業界では理想的な材料と見なされています。現在、クモの糸などのタンパク質に注目したテキスタイルやファッションアイテムの生産なども行われており、日本のベンチャー企業では世界初の合成クモ糸繊維「QMONOS」の量産化に成功したSpiberが、アパレルメーカーとコラボレーションした取り組みが非常に有名です。[1]

Spiber x The North Face [1]

今まで、遺伝子組み換えクモ糸タンパク質から繊維を調製するための多大な試みがありましたが、生産性が非常に低いため、スケールアップに対する高い要件は言うまでもなく、非常に高いエネルギーを持つ材料を人工的に生成することは、コスト観点から見ても、依然として非常に大きな課題です。

本論文では、化学合成経路を使用してスケーラブルなスーパータフ繊維を合成するための、簡単にクモ糸を模倣する戦略が報告されています。
論文内で報告されている一般的なクモのドラグラインシルクの値の2倍以上で、最も硬いクモシルク、コガネグモの房状シルクの値に匹敵する超靭性(≈387MJ m-3)は、βシート結晶とα-らせん状のペプチドを同時に擬似タンパク質ポリマーに入った構造によるものだそうです。このプロセスは、優れた擬似的なクモの繊維を得るために、非常に有望な道を開く、と著者らは主張しています。

論文内には合成スキームや、実際のFT-IRなどの同定スペクトルも表記されていますので、興味のある方はぜひご参照ください。

[1] シェル外層部分に新たに開発したブリュード・プロテインを採用したSpiberとNORTHFACEの取り組み事例: https://sp.spiber.jp/tnfsp/mp/

[2] : Gu, L., Jiang, Y., & Hu, J. (2019). Scalable Spider‐Silk‐Like Supertough Fibers using a Pseudoprotein Polymer. Advanced Materials, 1904311.

URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.201904311

2次元ナノ導電材料を用いた人工筋肉アクチュエータが見せるアート性

Demonstration of kinetic art: “Dancing” butterflies on a tree ([1]より引用)

本論文は、Korea Advanced Institute of Science and Technology(通称KAIST)のナノ工学研究チームらが発表し、2019年8月にScience Advancesに寄稿されたものです。

既存のイオン人工筋肉には、応答速度の大幅な向上、曲げひずみの増加、耐久性の向上のために、技術革新が必要です。
本論文では、イオン架橋Ti3C2TxとPEDOT:PSSで構成されるMXene人工筋肉を報告し、1秒以内の超高速立ち上がり時間を示したと報告しています。MXene自体は、Ti(チタン)やC(炭素)で構成される2次元ナノ導電性材料の総称です。MXeneに関しては、過去記事で紹介しています。

今回KAISTの研究チームが発表したイオン人工筋肉は、DC応答、非常に低い入力電圧領域(0.1〜1 V)で最大1.37%の非常に大きな曲げ歪み、最大18,000サイクルまで97%の長期サイクル安定性、位相遅延の大幅な低減、最大20Hzの周波数帯域の電気刺激の下で層間剥離のない良好な構造的信頼性を持つそうです。

また論文中には複数のアプリケーションが提示されており、折り紙にインスパイアされた水仙の花ロボットや、着用可能なブローチ、蝶、木の葉といったアート要素を取り入れたデモンストレーションなどが紹介されており、他の人工筋肉の研究が行うアプリケーション事例とは少し違う観点で書かれています。

今後の技術進化によって、ウェアラブルエレクトロニクスや運動アート作品を含む次世代のソフトロボットデバイス用のMXeneベースのソフトアクチュエータの幅広い可能性に期待できるかもしれません。

[1] : Umrao, S., Tabassian, R., Kim, J., Zhou, Q., Nam, S., & Oh, I. K. (2019). MXene artificial muscles based on ionically cross-linked Ti3C2Tx electrode for kinetic soft robotics. Science Robotics4(33), eaaw7797.

URL : https://robotics.sciencemag.org/content/4/33/eaaw7797

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