Natureが2019年の科学分野における「今年の10人」を発表しました

Nature誌が2019年に科学界で話題となった「今年の10人」を選定し、発表しました。宇宙分野から自然環境保護、量子コンピュータ、免疫分野など様々な分野で功績もしくは話題になった人が選ばれています。

1、Ricardo Galvão(リカルド・ガルヴァン):物理学者、以前は国立宇宙研究所の所長
アマゾンの森林火災に関して、政府へ抗議し、国民的英雄となりました。

2、Victoria Kaspi(ビクトリア・カスピ):天体物理学者、McGill大学の教授
電波望遠鏡で神秘的な高速電波バーストを追跡しました。

3、Nenad Sestan(ネナド・セスタン):イェール大学医学部の神経科学、比較医学、遺伝学、精神医学の教授
死後数時間経ったブタの脳を復活させ、生と死の定義に挑戦しました。

4、Sandra Díaz(サンドラ・M・ディアス):コルドバ国立大学の生態学の教授
地球の生態系を評価し、抜本的な行動を呼びかけた生態学者です。

5、Jean-Jacques Muyembe Tamfum(ジャン=ジャック・ムエンベ=タムフム):コンゴ民主共和国共和国国立衛生研究所のゼネラルディレクター
エボラの共同発見者であり、コンゴ共和国で10回目のエボラウイルスとの戦いに直面しています。

6、Yohannes Haile-Selassie(ヨハネス・ハイレ=セラシエ):エチオピアの古人類学者
古生物学者は、380万年前の頭蓋骨が保存されていることを発見し、人間の家系図を揺さぶりました。

7、Wendy Rogers(ウェンディー・ロジャーズ:臨床倫理教授。マッコーリー大学所属。
臓器移植に関する中国の研究で倫理的失敗を明らかにしました。

8、Hongkui Deng:中国の免疫学者および幹細胞研究者
CRISPR遺伝子編集が成人のHIV患者にも安全に使用できることを証明しました。

9、John Martinis:Googleとカリフォルニア大学サンタバーバラ校に所属する物理学者
Googleにおける量子コンピューターの最初のデモンストレーションを主導し、従来のマシンを上回る事を証明しました。

10、Greta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ):16歳の環境保護活動家
スウェーデンの10代の若者は、彼女の世代の怒りを伝え、気候変動に対する運動を先導しました。

下記に、Natureの記事のソースを載せておきます。

URL:https://www.nature.com/immersive/d41586-019-03749-0/index.html

ETH Zurichの研究チームがモノ自体に情報を埋め込む技術を開発しました

Storing data in everyday objects [1]

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)の研究チームが、モノ自体に情報およびデータを埋め込む技術を開発し、その研究成果をNature Biotechnologyが発表しました。
本技術は、DNA分子がデータを記録し、これらの分子はナノメートルシリカビーズにカプセル化され、あらゆる形状のオブジェクトを印刷またはキャストするために使用されるさまざまな材料に融合されるそうです。
論文中に記載がありますが、カプセル化するのは、単純にDNAを機能性材料を混ぜると、加水分解により急速にDNAが劣化するためだそうです。

この技術を使用すれば、3Dプリントした物体に設計情報など様々なデータを失われることなく記録できるため、IoT(Internet of Things)になぞらえた、DoT(DNA of Things)という概念を提唱しているようです。

Figure 1. DoT(DNA of Things)ワークフローとスタンフォードバニーの原理実証3Dプリンティングの概略図
(文献[2]のFigure1より引用)

論文では、最初に、DoTを使用して、その合成用の45kBデジタルDNA設計図を含むテストモデルであるスタンフォードバニーを3D印刷しています。(図1はワークフロー図)
追加のDNA合成や情報の劣化なしに、それぞれ前世代に作成したデータを用いて、5世代のバニーを合成したそうです。
また、DoTの拡張性をテストするために、アクリル樹脂のメガネレンズのDNAに1.4MBのビデオを保存し、アクリル樹脂の小さな断片を切り取り、DNAデータを取得したそうです。

DoTは、医療用インプラントに電子医療記録を保存し、日常のオブジェクトにデータを隠し、独自の設計図を含むオブジェクトを製造するために適用できる、と主張しています。
DoT、DNA of thingsという概念は、非常に面白いフレームワークだといえます。物自体の世代間の情報トレースなどができてくるようになると、真贋判定などにも使用可能なケースが増えそうです。

[1] : https://ethz.ch/en/news-and-events/eth-news/news/2019/12/dna-of-things-storing-data-in-everyday-objects.html

[2] : Koch, J., Gantenbein, S., Masania, K., Stark, W. J., Erlich, Y., & Grass, R. N. (2019). A DNA-of-things storage architecture to create materials with embedded memory. Nature Biotechnology, 1-5.

URL : https://www.nature.com/articles/s41587-019-0356-z

ソニーが開発したフルカラーで描画と消去を行えるロイコ染料を使用したフィルム

印刷した写真画質並みのフルカラー高解像度での描画を実現 [1]

ソニーは、フルカラーでの描画と消去が繰り返し行えるフィルムと、それを高速で実現するレーザー照射技術を新たに開発した、とニュースリリースにて発表しました。その論文が発表されていたので紹介します。

今回ソニーが開発したフィルムは、レーザー光を熱に変換する光熱変換剤と、シアン、マゼンダ、イエローの各色を有するロイコ染料、熱によってその発色状態を変化させることのできる材料等を、ソニー独自の技術で配合、積層することで実現したそうです。
熱による発色状態の変化で描画を行うため、階調は段階的なドット表現ではなく細やかな濃淡で表現でき、写真画質レベルの鮮やかな色彩表現が可能、とリリース本文には記載されています。[1]

論文中に記載があるように、ロールツーロール(R2R)プロセスで簡単に製造でき、書き込みと消去は、近赤外レーザー光のスキャンによって実行するそうです。426 ppiの高解像度で、広い色域のフルカラー写真品質の画像を実現でき、書き換えも確認されています。

高温保管および耐光性試験の信頼性モデルを検証しており、このモデルは実験データとの良好な一致を示し、画像の寿命は周囲条件下で8年を超えると推定しています。

この技術は、電力を節約し、紙の使用を削減しながら、オンデマンドの書き換え可能な画像デザインのアプリケーションを作成し、最終的に持続可能な社会に貢献できる、と締めくくっています。

[1] : https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201905/19-043/

[2] : Kaino, Y., Kurihara, K., Shuto, A., Mizuno, H., Asaoka, S., Ishida, T., … & Tejima, A. (2019, June). 57‐2: Distinguished Paper: Laser‐Addressed Full‐Color Photo‐Quality Rewritable Sheets Based on Thermochromic Systems with Leuco Dyes. In SID Symposium Digest of Technical Papers (Vol. 50, No. 1, pp. 799-802).

URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jsid.775?af=R

3Dプリントしたアクチュエータを機械学習でコントロールする手法

University of Mary とUnivesity of Utahらのグループによって、3Dプリントしたソフトアクチュエータを機会学習によってコントロールする手法がScientific Reportに報告されました。

今回提案された技術ではIPMC(Ionic Polymer-metal Composite)と呼ばれるタイプのソフトアクチュエータが用いられています。

IPMCは柔らかいアクチュエータや人工筋肉と呼ばれる分野の手法と一つで、二つの電極の間にイオンを含ませたポリマー層から構成されています。電圧を加えると電界により内部のイオンが移動し、その際に生じる膨潤度の違いにより屈曲するアクチュエータです。

 

 

Fig1. IPMCの駆動メカニズム (図. Auror Design)

また、この時の抵抗値の変化などからセンサとしても用いることも可能です。1.5Vほどの低い電圧で駆動することができ音を立てずにしなやかな動きが作れることから、魚型のロボットなどがこれまでにも試作されています。

今回の論文では下のFigの手順で3Dプリントを活用してアクチュエータの構造体を作っています。

Fig2. フィラメントによるIPMCsの3Dプリントによる作成プロセス([1] Fig.1より引用)

はじめに、IPMCの前駆体となる部分を3Dプリンタにより構成します。続いて、このように造形した物体を化学処理を行い、アクチュエータとして機能するように処理します。そしてメッキ処理処理を行うことで表面で電極を構築することで任意の形状のIPMCアクチュエータを構築します。

Fig3 IPMCの前駆体となるNafionの3次元造形の様子([1] Fig.2より引用)

まだ最終プロセスまで全てを3Dプリンティングできるわけではないですが、シンプルな構成のIPMCを活かした製造プロセスになっています。

また本論文ではこのように形成したIPMCを等価回路に置き換え、そこで派生した電流の値を元に力を計算し、一般マクスウェルモデルと機構の情報を用いて変形量に変換するというモデルを提案しています。

今回は芋虫の体を参考にリング状の構造体を組み合わせて、その変形量から動きを作るという試みをしています。

Fig.4 提案手法による構造体のモデル([1] Fig.3より引用)

ボディと脚部のアクチュエータの位相をコントロールすることでCrawling Robotの動きを作るために、今回はMachine Learningによるモデルを取り入れています。

Bayesianによる最適化を試みました。その結果、Simulation上では、Policy Gradient Methodによるコントロール手法に比べて少ない訓練数で所望の動きが得られています。また過去のDynamics Modelをとい入れることでより少ない回数で収束することが示唆されました。

一方で実際に作成したロボットの実験ではSimulationに対するパフォーマンスの低下が見られたようです。しかし、それでもなおBeyesianによる最適化は連続的な試行時には継続的なパフォーマンスの向上が見られています。

今回の発表は3DプリントによるIPMCの構築とそのコントロールのための機械学習の適用の可能性について探るための試みと言えるでしょう。実機でのずれなども存在していますが、複雑な系においてデジタルファブリケーション と機械学習を上手く組み合わせることで従来のアクチュエータと制御システムでは難しいような動きも段々と可能になってくるかもしれないですね。

参考文献:

[1]Carrico, J. D., Hermans, T., Kim, K. J., & Leang, K. K. (2019). 3D-Printing and Machine Learning Control of Soft Ionic Polymer-Metal Composite Actuators. Scientific reports9(1), 1-17.

URL: https://www.nature.com/articles/s41598-019-53570-y

 

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