2次元材料の大規模合成に向けた最近の進展

グラフェンや遷移金属ジカルコゲニドなどに代表される2次元材料は光との相互作用やユニークなバンド構造、磁気構造などをもつことから光触媒、太陽電池、トランジスタ、スピントロニクスなど様々な領域で応用が期待されています。

このような素材は通常、剥離や気相成長といったプロセスで作成されています。今週Natureに掲載された研究は、非ファンデルワールス系(non-vdW)の結晶を2次元の金属カルコゲナイト層に変換する方法を提案しています。

提案手法ではnon-vdW結晶固体を適切な蒸気圧とエンタルピー条件下でカルコゲン蒸気にさらすことで実現されています。ヘテロ原子置換(イットリウムやリン)の遷移金属カルコゲナイドも本手法で合成できるため、高温で良好な安定性を備えた位相を洗濯した遷移金属カルコゲナイド構造を合成するために広く用いられる手法になるかもしれません。

図1 提案手法の概要([1]のFig.1 aより引用)

この素材はエネルギー、エレクトロニクス、触媒などの幅広い領域に応用可能性があり、高いスループットでの生産が実現することでこれらデバイス分野のブレイクスルーになるかもしれません。

興味のある方はぜひ下の関連URLのNatureの紹介記事や、Research Gateで公開されている原文を合わせてご覧ください。

関連URL:

・Natureの記事紹介:https://www.nature.com/articles/d41586-020-00094-5

・Research Gate: https://www.researchgate.net/publication/338754975_Conversion_of_non-van_der_Waals_solids_to_2D_transition-metal_chalcogenides

参考文献

[1]Du, Z., Yang, S., Li, S., Lou, J., Zhang, S., Wang, S., … & Ajayan, P. M. (2020). Conversion of non-van der Waals solids to 2D transition-metal chalcogenides. Nature577(7791), 492-496.

コロンビア大学が開発した人体適合性がある有機電気化学トランジスタ

「Internal ion-gated organic electrochemical transistor: A building block for integrated bioelectronics」の画像検索結果
Figure 1. IGT(イオンゲートトランジスタ)の構造図と安定した状態での特性値 [1]
(論文[1]のFigure 1より引用)

生体信号のリアルタイム処理および操作には、信号の増幅、処理、および刺激が可能な統合コンポーネントを備えた生体親和性の高い電子機器が必要です。トランジスタは回路のバックボーンを形成しますが、生物学的環境で効率的かつ安全に動作するためには、多くの基準を満たす必要があります。

コロンビア大学の研究チームが、導電性ポリマーチャネル内に含まれる可動イオンを使用して、体積静電容量とイオン移動時間の短縮の両方を可能にする内部イオンゲート有機電気化学トランジスタ(IGT)を開発し、その研究成果をScience Advancesに寄稿しています。

d-ソルビトールを使用してPEDOT:PSS内のイオンリザーバーを維持し、これらの局所可動イオンが外部イオン源なしで導電性ポリマーを脱ドープするのに必要かつ十分であることを実証したと報告しています。
IGTは、高い相互コンダクタンスと高速性を備えており、独立してゲート制御して、スケーラブルな適合可能な集積回路を作成でき、かつ既に確立された微細加工技術を使用して処理できる生体適合性の市販の材料のみで構成されているため、毒性がないため、生物学的環境にカプセル化する必要はないそうです。

IGTベースのデバイスは化学接着剤は必要なく、仮に人体に接着させたとしても、皮膚への刺激がなくなり、快適性が向上したそうです。デバイスと頭皮のインターフェースで直接IGT局所増幅を行うと、接触サイズを5桁小さくすることができ、デバイスは毛包間に容易に収まり、配置が大幅に簡素化されたそうです。IGTは、小型化されたトランスデューサーとしての機能に加えて、統合された閉ループシステムを形成することにより、生体信号を処理および相互作用する能力を備えています。
IGTベースのデバイスのユニークな機能は、ブレインマシンインターフェイス、ウェアラブルエレクトロニクス、治療応答刺激デバイスなど、人間への安全で慢性的な埋め込みを必要とする広範なバイオエレクトロニクスへの潜在的な適用性を促進する、と主張しています。

[1] : Spyropoulos, G. D., Gelinas, J. N., & Khodagholy, D. (2019). Internal ion-gated organic electrochemical transistor: A building block for integrated bioelectronics. Science advances5(2), eaau7378.

URL : https://advances.sciencemag.org/content/5/2/eaau7378

EPFLと東工大が開発したマッキベン型アクチュエータとポンプを組み合わせた柔らかい流体筋肉

伸縮可能なポンプとMcKibben型の人工筋肉を組み合わせた電気駆動の流体アクチュエータ [1]

ソフトウェアラブルロボットは、下肢と上肢をサポートし、重量物を持ち上げる能力を高め、歩行と走行に必要なエネルギーを減らし、触覚フィードバックも提供できます。ただし、これまでのウェアラブルロボットのほとんどは、電磁モーターまたは流体アクチュエータに基づいており、前者は剛性でかさばり、後者は外部ポンプまたはコンプレッサーを必要とするため、統合と携帯性が大幅に制限されていました。

EPFLと東工大の研究チームが、細くて繊維のようなMcKibben型アクチュエータと完全に伸縮可能なポンプを組み合わせた、新しい電気駆動の柔らかい流体筋肉について発表しています。
これらのポンプは、電界によって液体分子を直接加速する固体ポンプ機構であるEHD(ElectroHydroDynamics)に依存しています。
可動部品を必要としないため、ポンプの動作音は静かであり、動作中に曲げたり伸ばしたりすることができます。
各電動流体筋肉は、伸縮性ポンプ1台と薄いMcKibbenアクチュエータ1台で構成され、重量が2 gの細長いソフトデバイスになるそうです。

今後、応答時間の短縮とエネルギー効率の向上に焦点を当てると報告しており、繊維に統合するためのモジュール式で簡単なこれらの電気駆動による人工筋肉の制作は、人間の支援と能力拡張、増強のための多機能機能を備えた柔らかくスマートな衣服を可能にする、と締めくくっています。

[1] : Cacucciolo, V., Nabae, H., Suzumori, K., & Shea, H. (2019). Electrically-driven soft fluidic actuators combining Stretchable Pumps with Thin McKibben Muscles. Frontiers in Robotics and AI6, 146.

URL : https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/frobt.2019.00146/full

ペリカンウナギにヒントを得たデュアルモーフフィングの伸縮性折り紙ロボット

Bioinspired Dual-morphing Stretchable Origami (SOrigami) [1]

自然は、ユニークな動きのパターンを介して、適応的で極端な形状のモーフィングを示します。それらの多くは、モノリシックな形状変化メカニズムによって説明されており、このような「シングルモード」モーフィングメカニズムではなく、人工システムで再現できない自然なモーフィングの未調査の領域が残っていると主張しています。1つの例は、ペリカンウナギとして知られている生物の動きである、「デュアルモード」モーフィングと呼ばれる領域だそうです。
これは、最初に口を開き、次に口を膨らませて獲物を飲み込む確率を最大にする、といった動きが代表的だと言います。

ソウル大学校、ハーバード大学らの研究チームは、ペリカンウナギにヒントを得た、液体圧力に応じて折り紙の展開と皮膚の伸張の挙動を具体化するデュアルモーフィングアーキテクチャを発表しています。
提案しているシステムでは、ペリカンウナギの伸縮可能な折り畳み式フレームのモーフィング原理を模倣し、伸縮可能な折り紙ユニットによって、流体経路が囲まれています。体全体が最初に展開する方向に流体圧力が作用する流体ネットワークのこの幾何学的およびエラストマー設計により、デュアルモーフィング応答が生じたそうです。
デザインルールの有効性を検証するために、ペリカンウナギを模倣した人工生物を作成し、生体模倣の二重モーフィング動作を再現しており、ユニットセルを従来の折り紙フレームに合成することにより、展開を組み合わせた適応グリップ、クローリング、および広範囲の水中運動を示すソフトマシンのアーキテクチャを示しています。技術的に理解がしづらい方は、動画を参照すると、イメージが湧きやすいと思います。

[1] : Kim, W., Byun, J., Kim, J. K., Choi, W. Y., Jakobsen, K., Jakobsen, J., … & Cho, K. J. (2019). Bioinspired dual-morphing stretchable origami. Science Robotics4(36).

URL : https://robotics.sciencemag.org/content/4/36/eaay3493

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