擬似タンパク質ポリマーを使用したクモの糸のような繊維

本記事は、2019年9月にAdvanced Materialsに寄稿された香港理工大学のInstitute Clothing & Textilesに所属する研究チームが発表した、擬似タンパク質ポリマーを使用した蜘蛛の糸を模倣した繊維に関する論文です。

スパイダーシルクは、世界の他のほとんどすべての材料よりも丈夫であるため、科学者や業界では理想的な材料と見なされています。現在、クモの糸などのタンパク質に注目したテキスタイルやファッションアイテムの生産なども行われており、日本のベンチャー企業では世界初の合成クモ糸繊維「QMONOS」の量産化に成功したSpiberが、アパレルメーカーとコラボレーションした取り組みが非常に有名です。[1]

Spiber x The North Face [1]

今まで、遺伝子組み換えクモ糸タンパク質から繊維を調製するための多大な試みがありましたが、生産性が非常に低いため、スケールアップに対する高い要件は言うまでもなく、非常に高いエネルギーを持つ材料を人工的に生成することは、コスト観点から見ても、依然として非常に大きな課題です。

本論文では、化学合成経路を使用してスケーラブルなスーパータフ繊維を合成するための、簡単にクモ糸を模倣する戦略が報告されています。
論文内で報告されている一般的なクモのドラグラインシルクの値の2倍以上で、最も硬いクモシルク、コガネグモの房状シルクの値に匹敵する超靭性(≈387MJ m-3)は、βシート結晶とα-らせん状のペプチドを同時に擬似タンパク質ポリマーに入った構造によるものだそうです。このプロセスは、優れた擬似的なクモの繊維を得るために、非常に有望な道を開く、と著者らは主張しています。

論文内には合成スキームや、実際のFT-IRなどの同定スペクトルも表記されていますので、興味のある方はぜひご参照ください。

[1] シェル外層部分に新たに開発したブリュード・プロテインを採用したSpiberとNORTHFACEの取り組み事例: https://sp.spiber.jp/tnfsp/mp/

[2] : Gu, L., Jiang, Y., & Hu, J. (2019). Scalable Spider‐Silk‐Like Supertough Fibers using a Pseudoprotein Polymer. Advanced Materials, 1904311.

URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.201904311