固体電池の課題と最新の研究内容に関するReview論文

本論文は2019年にNature Materialsに寄稿された固体電池に関するReview論文です。

持続可能なエネルギーにおける重要な分野として、固体電池は昔から注目を集めています。潜在的な安全性、エネルギー密度、サイクル寿命の利点があるためです。
本レビューでは、固体電池コンセプトの中心にある無機固体電解質の基本的な理解における最近の進歩について、マルチスケールイオン輸送、電気化学的および機械的特性、および電流処理ルートの分野における重要な問題を扱いながら説明してくれています。実用的な固体デバイスの主な電解質関連の課題には、金属アノードの使用、界面の安定化、物理的接触の維持、固体電解質材料の基礎となる特性に関する知識の獲得に依存する解決策が含まれる、と記述しています。

Figure 1. バイポーラ型の積層固体電池における概略図 [1]

図に示すように、固体電池における重要な課題は不均一金属の体積、界面の形成および接触による損失が挙げられ、これらの課題を解決するための最先端の知識を集約したReview論文になっているため、興味がある方は是非ご一読ください。

個人的には、非常に図がわかりやすいと感じましたが、特に論文中にある固体電池の製作プロセスにおけるフローチャートは、一見の価値があると感じています。他のデバイス製作にも応用可能な表現方法で、視認性が高いものとなっています。

[1] : Famprikis, T., Canepa, P., Dawson, J. A., Islam, M. S., & Masquelier, C. (2019). Fundamentals of inorganic solid-state electrolytes for batteries. Nature materials, 1-14.

URL : https://www.nature.com/articles/s41563-019-0431-3

指先の感覚をリアルタイムで確認できるマイクロ顕微鏡デバイス : MagniFinger

MagniFinger: Fingertip-mounted microscope for augmenting human perception [1]

人間の指は、物体に触れるときの感覚からもわかるように、人間の最も重要な感覚を司る器官の1つです。物体に触れれば、その物体の表面の形状を感じることができ、おおよそのイメージが掴めます。
ただ、実際に物体の表面の微細な構造まで見ようとする時は、現在の技術では顕微鏡が必要です。
つまり微罪な構造に関しては、その構造を”見ながら触れる”ことは難しいのが現状です。

本研究では、指先に取り付ける顕微鏡を設計し、インターフェースとしての機能を導入しています。開発されたMagniFingerという指ベースの顕微鏡をつけることで、スライドとチルトの2つの制御手段を使用することができ、指先の接触面を拡大できます。
そのため、ユーザーは画像を見ながら自分の指を動かすことができるため、微小環境下でのより正確な動きが可能になるとのことです。 本論文に掲載されている実験の結果によると、単純なスライディングベースの制御と比較して、ターゲットに到達する時間を短縮する効果を得たそうです。

見ながら触れることは、単純に見るという視覚活動に加え、触覚活動が加わることで、視覚の情報処理に特化した脳領域である視覚野の活動パターンが変化することが過去の研究でもわかっています。[2]

こういった研究が進むことで、人間の能力を増強する可能性や、今まで見て触れることができなかったミクロな世界への焦点が当たることで、今までと違った研究が進むことを期待できそうです。

[1] : Obushi, N., Wakisaka, S., Kasahara, S., Seaborn, K., Hiyama, A., & Inami, M. (2019, March). MagniFinger: Fingertip probe microscope with direct micro movements. In Proceedings of the 10th Augmented Human International Conference 2019 (p. 32). ACM.

URL : https://dl.acm.org/citation.cfm?doid=3311823.3311859

[2] : Goda, N., Yokoi, I., Tachibana, A., Minamimoto, T., & Komatsu, H. (2016). Crossmodal association of visual and haptic material properties of objects in the monkey ventral visual cortex. Current Biology26(7), 928-934.

URL : https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982216300227

画像処理におけるエッジコンピューティングを加速するORRAMデバイス

本記事は2019年7月にNature Nanotechnologyに寄稿された論文に関する内容です。

ニューロモーフィック、という言葉を耳にしたことがある方は多いかもしれませんが、ニューモーフィックとは動物の脳の働きを模したもの、つまり脳の神経細胞の構造を模したものであり、現在コンピューティング領域においては様々な研究が進められています。

今回の論文で扱っているのはニューロモーフィックビジョンシステム、つまり画像の取得からコンピューティングなどのセンシング領域のもので、このシステムは、可視光領域を超えて、人間の視覚システムの基本機能を擬似的に再現する可能性を秘めています。
ただし、従来のイメージセンサー、メモリ、処理プロセッサに基づく視覚システムの複雑な回路は、デバイスの統合と消費電力の点で重大な課題があり、本論文では、不揮発性の光学抵抗スイッチングと光調整可能なシナプス挙動を示す効率的なニューロモーフィックビジョンシステム用のシンプルな2端子光抵抗ランダムアクセスメモリ(ORRAM)シナプスデバイスを提案しています。

Figure 1. ORRAM (光抵抗RAM) を使用した場合の画像処理シュミレーションに関する図 [1]

このデバイスを使用するメリットは、ORRAMアレイを使用すると、図1のように、画像処理とメモリ機能、およびニューロモーフィックな視覚的な前処理が可能になり、後続の処理で効率と画像認識率が向上し、消費電力を削減できる可能性を示唆しています。

本研究で提唱しているシステムは、ニューロモーフィックビジュアルシステムの回路を簡素化し、エッジコンピューティングの向上が見込まれることになり、今後のユビキタスコンピューティングへの分野の発展も期待できそうです。ORRAMアレイデバイスの制作方法や、Simulationのソースコードなども使用可能だと記載があるので、興味がある方はぜひ、読んでみてください。

[1] : Zhou, F., Zhou, Z., Chen, J., Choy, T. H., Wang, J., Zhang, N., … & Chai, Y. (2019). Optoelectronic resistive random access memory for neuromorphic vision sensors. Nature nanotechnology14(8), 776-782.

URL : https://www.nature.com/articles/s41565-019-0501-3

エラストマーでできた伸び縮み可能なポンプデバイス技術がNatureに掲載されました

柔らかい筐体材料や機構から構成されるソフトロボットが近年盛んに研究されております。2018年からはRobosoftという専門の国際会議が発足されたり、JSTの新学術領域ではソフトロボット学がスタートしたりとより多くの注目を集めています。

本研究では、このような柔らかいロボットの駆動源となり得る伸縮可能なポンプ技術を提案し、その研究成果がNatureに掲載されました。

このポンプは電気流体力学現象(Electrohydrodynamics: EHD)と呼ばれる電界に応答して、液体が泳動する現象を用いています。今回EPFLと芝浦工業大学らのグループはこのEHD Pumpをシリコーンエラストマーと伸縮性の電極材料を用いることでポンプ自体を伸縮可能にしています。

空気圧ポンプや流体ポンプなどは駆動部と駆動源を離して配置しても、動作させることができるという利点を有しています。しかし、柔軟性を確保するには硬いポンプを外部に設置することが課題となっていました。今回提案された伸縮性のポンプは従来のポンプと体積や重量当たりの圧力や流量はほぼ同等のレベルを実現しており、系自体が柔らかい物質で構成されているのでソフトロボットの内部への組み込みやウェアラブルデバイスへの応用などが期待されます。

実際に論文中でソフトロボットへの組み込みやグローブ型のWearable Cooling Systemといったアイディアが提案されています。

伸縮性ポンプを統合したソフトロボットの外観
([1]のFig.4より引用)

EHDポンプ自体は1960年代にすでに論文としても発表されており、2000年代前半などにCPUの冷却システムなどで様々なデバイスの研究がなされてきました。[2]

EHDポンプは10MV/m程度の電界強度を必要とするため通常は小型化して低電圧で駆動させる方向で開発を進めるケースが多かったですが今回の論文ではこの技術をスケールは大きいままに、別の材料系とアプリケーションで展開したこと、そして他のソリューションとの比較を丁寧に行なったことがユニークかと思います。

今後も柔らかいセンサやアクチュエータを用いたソフトロボットやウェアラブルの開発が盛り上がりそうです。

[1]:Cacucciolo, V., Shintake, J., Kuwajima, Y., Maeda, S., Floreano, D., & Shea, H. (2019). Stretchable pumps for soft machines. Nature572(7770), 516-519.

[2]Fylladitakis, E. D., Theodoridis, M. P., & Moronis, A. X. (2014). Review on the history, research, and applications of electrohydrodynamics. IEEE Transactions on Plasma Science42(2), 358-375.

URL: https://www.nature.com/articles/s41586-019-1479-6

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